ニガヨモギとは?

キク科ヨモギ属の多年草で全草に強い苦みを含む植物の総称。主にArtemisia absinthium が有名。

花言葉:愛の離別

歴史:
 ニガヨモギはヨーロッパで古くから使われてきたハーブの一つであり、書物では3600年前のパピルス紙がエジプトで保存されており、聖書にも記載されている。シェイクスピアやジョン・ダンといった文学作品にも頻度に登場する。ニガヨモギの持つ独特の強い苦味は、毒草に例えられて人を蔑む意味や媚薬そしてその反対の制淫剤、乳離れの薬として登場する。虫下し、虫除け、媚薬、制淫剤、呪術そしてベルモットやアブサンといった薬草酒原料として広く知られている。日本に登場するのは明治初期で江戸時代後期の植物図説で誤ってニガヨモギの名を誤って名付けたとされる。この植物を最も有名にしたのはアブサンの原料として使用されたことにより、後にアブサンの禁止理由にたったことからで、それまではベルモットの原料や聖書の植物としてマイナーであった。ベルモットの語源はニガヨモギのドイツ名、wermut(ヴェルムート:精神を保護するもの)に由来する。また、英語名のワームウッドは聖書でエデンの園から追われた蛇がはった後にこの植物が生えたので「虫の草」ワームウッドとなったとの説もある。

聖書の一節:

「第三の御使いが、ラッパを吹き鳴らした。
すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。
そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。
この星の名は、ニガヨモギと言い、
水の三分の一がニガヨモギのように苦くなった。
水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ」
『聖ヨハネの黙示録』
※聖書に出てくるニガヨモギはどうやら学名Artemisia judaica だとする説が有力でArtemisia absinthiumと近縁の植物だが別種。


ニガヨモギとアブサン:
 アブサンの特徴をもっとも強く出している中心的原料でありどんなにひいき目に考えてもアニスかニガヨモギのどちらかが入っていないとアブサンとは言えないだろう。ニガヨモギがアブサンに与えている特徴は、苦み・独特のフレーバー・ツジョンの3要素が考えられ、どれもアブサンには欠かせない物である。ニガヨモギオイルの量が規制対象となった時期もある。


ニガヨモギ:キク科の多年草
和名:苦蓬(ニガヨモギ) 生薬名:苦艾(クガイ)
学名:Artemisia absinthium(アルテンシア・アブシューム)
英名:wormwood(ワームウッド)
ドイツ名:wermut(ヴェルムート)
フランス語(グランド・アブサン)
ウクライナ語:полин / polin(ポリン)
イタリア名:amaro assenzio(アマーロ・アッセンジオ)
古代別名:(Bathypicron/バテュピクロン)
旧学名・書籍名:Absinthium ponticum /Absinthium marinum


※イタリア名は未確認情報「アマーロ」は苦い、「アッセンジオ」がヨモギの意らしい。
ウクライナ語のчорнобиль / chornobil(チェルノブイリ)はArtemisia vulgaris

別名一覧:
オオニガヨモギ
グランド・アブサン

野生場所・形状:ヨーロッパ、アジア北部、北米に野生する多年草、高さ40〜60cmぐらいまで成長する。葉は羽状に2〜3裂する。柔らかい絹毛を密生するため葉上面は緑白色、裏面は白色、夏に直径3mm〜4mmの頭状花を下向きにたくさん付ける。全体に芳香と強い苦味がある。

ハーブ・生薬としての効能:葉を乾燥させたものは、アブシント・herba absinthii・苦艾と呼ばれ、健胃・解熱・駆虫・強壮薬として使われた。全草に精油約0.5%を含み、その成分はツヨン(thujene)・アブシントール(absinthol)アブシチン(absintin)アンアブシチン(anabsitin)を含む。

苦み:セスキテルペン(アブシンチン、アブソルビン等)

  食品添加物の苦味料(ニガヨモギ抽出物)として清涼飲料水・酒精飲料で使われているが安全性の方は詳しく調べられたことはないようであり、発ガン性、変異元性も不明である。

フレーバー:ワームウッドの香りの主成分はケトン類でヨモギ様とハーブ系独特の香りがする。 アロマテラピーでワームウッド精油、ワームウッドオイルとして使用されているが、日本ではあまり見かけられなく、てんかん・かんしゃく・妊婦、小児への使用は禁。使用には細心の注意を必要とする。ワームウッド精油の成分分析ではα-pinene,Camphene,p-Cymene,α-Thujene,β-Phellandrene,Caryophyllene,α-Himachalene,α-cadinene,Thujyl alcohol,α-Terpineol,Garaniol,Elemol,Anisaldehyde,α-Thujone,Methylheptenone,thujyl acetate,1,8-cineole,Caryophyllene oxideが含まれていることが確認されており、アブサンもこれに準ずるものと推測される。

アブサンに使用される近縁のヨモギ属
 
ニガヨモギにはいくつかの種類がありニガヨモギ(Artemisia absinthium)が有名だが様々な資料に記載されているニガヨモギは多種ある。
Artemisia pontica/アルテミシア ポンティカ
和名:コニガヨモギ/ドワーフ・ワームウッド/ローマン・ワームウッド
フランス:プチット・アブサン
古代名:ポントゥス(ポントス)

  コニガヨモギ:自宅プランター

ミブヨモギ

 ミブヨモギ:星薬科大薬用植物園




※ミブヨモギは明治期or昭和初期に日本に種子の状態で導入され京都壬生で品種改良されたものがミブヨモギで
国産生薬の先駆けとなった回虫駆除薬サントニンの生産に使われた。
この時にミブヨモギは Artemisia maritima と 
1927年ドイツからの種子でArtemisia monogyna Waldst et Kitが導入されたがうまく育たず薬用成分のサントニンの含有量も少なかったため品種改良され山科2号が誕生した。
※新日本製薬

Artemisia maritima/マリティマ = ミブヨモギ
別名: シー・アルテミジア/シー・ワームウッド
Seriphion/セリフィオン=santonicum/sandonion

Artemisia monogyna Waldst et Kit = ミブヨモギ


ハマニガヨモギ?=クラムヨモギ=Artemisia kurramensis Quazilbash
※回虫駆除薬サントニンの生産のため1950年に西パキスタンから導入された

Artemisia ludoviciana=シルバーキング・ワームウッド

Artemisia abrotanum=サザンウッド=セイヨウカワラニンジン=キダチヨモギ
 
オウシュウニガヨモギ(Altemisia vulgaris L)=MUGWORT/マグワート=チェルノブイリ

クロニガヨモギ=不明
Artemisia palmata=Santonicumサントニクム=ジェネピーの可能性あり
ジェネピー=(Altemisia nivalis)
総称:カッパドキアのタウルス =産地名


ツヨン・ツジョン(英:thujone独:thujon):

1016O:分子量152のモノテルペンケトンの一種でニガヨモギ以外にはヒノキ、シソ科の植物精油中に発見されている。メントール様のいくぶん独特のにおいのある液体、天然のツジョンのほとんどはα-thujoneとして存在し沸点200〜201°

 アブサンが1907年にスイスで1915年フランスで製造、販売禁止された最大の理由がツジョンが入っていたためと言われる。ツジョンには向精神作用があり、大麻の活性成分(Δ-THC)テトラヒドロカンナビノールと同じ中枢神経の受容体に作用すると考えられている。構造的にTHCを簡素化したと見えなくもない。ツヨンが大麻の成分とほぼ同じ作用であると仮定するならば、中毒性、依存性は持たず、麻酔性を持つ物質だと推定され、適量な服用は鎮静・抗鬱・鎮痛・麻酔性を持つと考えられる。

急性毒性:大量に服用した場合には痙攣を引き起こす。

慢性毒性:不安感、不眠、悪夢、おうと、めまい、震え、けいれん

などが報告されているが、慢性毒性に関してはアブサンとして摂取された時であり、アルコール中毒と明確に分離できないため大きな疑問が残る。

アブサンとツジョン濃度の考察


 最近輸入された高級アブサンのツジョン濃度は3〜5ppmで普通のアブサンよりも低い値になっている。だが実際の舌への痺れなどアブサンの風味は強い。また、海外で禁止前のアブサンを化学分析しツジョン濃度を調べた資料を先日発見。
個人蒸留…ツジョン25ppm・アネトール956ppm
1900のペルノーフィールズ…ツジョン6ppm・アネトール1400ppm
アン・エミル…ツジョン10ppm・アネトール792ppm
昔のアブサン、少なくともペルノー社のアブサンのツジョン濃度は高くなかったのでは?という疑問が・・・?もちろん経年劣化や分析誤差も考えられるが・・・・ツジョン濃度よりも、神経作用に寄与する成分があるのではないだろうか?この資料には風邪薬や頭痛薬の成分で有名なアネトールの記載がある。原料のハーブには様々な薬効があり、その中でも鎮痛や麻酔・解熱・催淫薬として民間で使われたハーブも数多く原料となる。植物アルカロイドが大量に含まれているのでそちらの効果も忘れてはならないだろう。ツジョン濃度ばかりに捕らわれていると美味なるアブサンを見逃してしまう危険性もある、ツジョン濃度はあくまでも一つの判断材料として、実際に飲んでみるのが一番である。